最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)1631号 判決 1949年11月15日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
被告人野々垣木芳、同仲井貫一の弁護人廣瀬通および被告人渡会昭吾の弁護人野田底司の各上告趣意書は、末尾に添えた別紙の通りである。
(一)廣瀬弁護人論旨第一点は、被告人野々垣が原審相被告人二名および第一審相被告人三名とともに本件強盗につきあらかじめ相談したことは証拠によって認められているが、犯行当夜は自宅に就寢中であって、強盗の実行行為には全然関係していないのに、原審が刑法第六十條により野々垣に共同正犯の責を負わせたのは、法條の適用を誤ったものである、と主張する。しかし、共謀を共同正犯なりとする理論は既に大審院時代に判例となって今日に至り、当裁判所の判例もかなりに廣くこれを認めている(昭和二四年六月一一日第二小法廷判決参照)。この理論をどの程度まで展開せしむべきかはなお問題としても、原審挙示の証拠によれば、被告人野々垣は本件強盗犯の実際上の主謀者だったのであって、自ら実行行為に参与しなかったが、最初に強盗を首唱してその方法等を他の共犯者に指示したりしたのであるから、明かに自己の犯意を他の共犯者を通じて実行に移したものと言い得るのであって、これこそ正に共謀による共同正犯の典型的事例と言ってよい。(昭和二三年一〇月六日最高裁判所大法廷判決参照)それゆえ原審が被告人を共同正犯なりとしたのは刑法第六〇條の正当な適用であって、論旨は理由がない。
(二)廣瀬弁護人論旨第二点は、たとい被告人らの行為が共同正犯にしても、だれがいかなる行為をしたかを特定しなくては、旧刑事訴訟法第三六〇條にいわゆる「罪ト為ルヘキ事実」を説明したことにならないのであって、原判決はこの点に違法がある、と非難する。なるほど原判決の犯罪事実の記載の部はいさゝか一括に過ぎたように思われるが、挙げられた証拠の内容と照らし合わせて観れば、本件強盗各犯人の各自の受け持ちとそれぞれの実行行為の内容を大体知り得るのであって原判決には結局所論のような理由不備の違法はないことになり、論旨は理由がない。
(三)廣瀬弁護人論旨第三点は、原審に、被告人仲井貫一の弁護人森健に対し召喚手続を採らずに公判を開廷して審理判決した違法がある、というのである。よって記録を調べて見ると、原審本件の公判期日が昭和二四年一月一八日に同年二月一日と指定された後、その前日なる一月三一日に森弁護人の弁護届が原審に提出受理されたのである。そして同弁護人に対する召喚手続が採られた形跡もなく、同弁護人から期日の請書も出ておらず、同弁護人は右公判期日に出廷していない。そこでかような場合についての判例をさかのぼると、大正一三年六月七日大審院刑事部判決(集三巻四七〇頁)に「裁判所ニ於テ既ニ公判期日ヲ定メ、被告人ニ対シ召喚手続ヲ為シタル後始メテ弁護人選任ノ書面ヲ差出シタル場合ニハ、弁護人ヲ特ニ其ノ期日ニ召喚スルノ要ナキモノトス。」とある。論旨は、弁護人の召喚は被告人に対する召喚に附随してされるものではなく全然独自の立場でされるものだ、との理由で右の判例を非難するが、被告人召喚後に弁護届を出す弁護人は、それまでに経過しまた予定された訴訟の進行程度を承知の上で参加したものと見られてやむを得ぬ次第であり、また本件のごとく予定の公判期日の前日になって弁護届を出したような場合には、実際上これに対して召喚状を出し請書を取るというような手続をする時間のない場合があり得る。なお本件において被告人仲井は公判期日において森弁護人の弁論を抛棄する旨の陳述をしたが、弁護人を召喚しないで審理した手続上の瑕疵はこれによって除去されないことは、所論の通りである。(昭和六年五月七日大審院刑事部判決集、一〇巻二一一頁、参照)
(四)こゝにおいて殘る問題は、本件において被告人に対し適法な召喚手続が執られたか、ということである。(昭和一一年五月四日大審院第一刑事部判決参照)。論旨は被告人に対して召喚状が発されなかったと言うが、被告人仲井は当時原審なる名古屋高等裁判所に近接する名古屋刑務所に勾留中だったのであるから、その召喚は旧刑事訴訟法第八四條第三項によって行われ得るのであり、その召喚手続は在監人呼出簿に記入して行われ、その旨は記録に記載されないのであるが、本人が期日に出廷していることそのことが右の手続が行われたことを示すものと言い得る。そして「此ノ場合ニ於テハ被告人監獄官吏ヨリ通知ヲ受ケタル時ヲ以テ召喚状ノ送達アリタルモノト看做ス」のであるから本件は正に前記大正一三年六月七日大審院判例の場合に当り論旨は理由がない。
(五)弁護人野田底司の論旨は、原判決は量刑不当のいちじるしいものであるから新刑事訴訟法第四一一條の趣旨にかんがみてこれを破棄されたい、というのであるが、本件は旧刑事訴訟法の適用される事件であるから、刑訴應急措置法第一三條第二項の規定上、量刑不当の主張は適法な上告の理由にならない。論旨は右應急措置法の規定は憲法違反である、と主張するが、同法條が憲法違反でないことは、既に当裁判所大法廷判例の認めるところである(昭和二二年(れ)第五六号同二三年二月六日判決、昭和二二年(れ)第四三号同二三年三月一日判決)。
よって旧刑事訴訟法第四四六條および最高裁判所裁判事務処理規則第九條第四項に從い、主文の通り判決する。
以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)